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「きつねのざんげ」 安野光雅 1979年 岩崎書店
今年もまもなく、暮れてゆく。
今年もどれだけ、嘘をついたか。
狐は偽善者になりたかった。類い稀な、偽善者に。
だから狐は嘘をつき、人を騙し、
できるだけ狡猾に、
できるだけ卑怯に、
生きてきた。
嘘ばかりつく政治家にあこがれて、
嘘の多い書物を見ては、
偽善というものの素晴らしさに胸を打たれた。
いつの日か「偉大な偽善者」になることを夢見ながら、
狐の子どもは強くなる。
森の獅子王を騙し、
首ながの鶴をからかい、
恐ろしい狩人もまき、
仇の犬は抹殺する。
でも、
お月さま
お月さま
今夜のあなたは
いつものお月さまとは ちがうように 思えます
偽善者になるために、狐は最高の嘘をつき、そして失敗をした。
狐は狐をやめて、人間になってしまったのだ。
安野さんの「あとがき」の、大好きな部分。
私は子どもの頃、治ちゃんという子と一しょに清という
友達の家へ遊びにいくとき、城山の下の道で、
「僕はな、狐が化けとるんだぞ」
と突然いってみた。治ちゃんはひどく驚いた。私まで
恐くなって、「うそだ、うそだ」とすぐに打ち消したが、
この時のぞき見たフィクションの世界はいまでも忘れられずにいる。
来年もきっと、人間はたくさんの嘘をつく。