今日のお話はこちら。
オールカラー版 世界の童話8
「日本の民話」
昭和42年 小学館
より、
「うぐいすひめ」
蕗谷虹児・絵/西山敏夫・文
大好きな梅の季節になるたびに、このお話を楽しみます。
幼い頃から数十年、心に焼き付けた美しい絵と共に・・・。
春のうららかなある日、川へ釣りに来た太郎は、
ポカポカの陽気につられて歩くうち、道に迷ってしまいました。
ふと
どこからか、美しい歌声が聞こえてきます。
声の方へ歩いて行くと、女の子が洗濯をしながら歌をうたっていました。
辺りは梅の花がいっぱいで、良い香りがしました。
太郎は、女の子の家で休ませてもらうことにしました。
女の子の家はとてもきれいで、家の中にまで
梅の香りが漂っていました。
女の子は太郎に留守番を頼み、町へ買物に出かけました。
出かける前に、二人はひとつの約束をしました。
「そのたんすの引き出しの中は、絶対に開けて見ないでください。」
「わかりました。決して開けたりいたしません。」
けれど太郎は・・・・
「ちょっとぐらい、いいだろう・・・」
一段目には一面に緑の苗代が、風にそよそよ、そよいでいました。
「次の引き出しは何だろう・・・」
そこでは小さな小さなお百姓さんが、
稲を植えるために、田を耕していました。
「次は何だろう・・・」
あまりの不思議さに、太郎は約束などすっかり忘れ、
次々と引き出しを開けて見てしまいました。
最後まで見てしまったあと、
太郎はハッと気がつきました。
「大変なことをしてしまった。見ないと約束をしたのに・・・」
女の子は帰って来ると、
両手を顔に当てて泣きました。
「秘密のたんすを見られては、もうここには居られません」
女の子はそう言うと、外へ駆け出して行きました。
太郎が女の子を追って外へ出ると・・・
女の子の姿は消え、
「ほう ほけきょ、ほう ほけきょ」
一羽のうぐいすが、
遠くの空へ飛んで行きました。
「ほう ほけきょ、ほう ほけきょ」
太郎はハッとして目が覚めました。
釣り糸を垂れたまま、眠っていたのでした。
全てが夢でした。
はるのうららの、川のほとりで見た、一時の春の夢でした。
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小学館から出ていたこの「
世界の童話」シリーズには、
思い出のある方も多いと思います。
小学校の図書館や児童館に行くと、全巻が揃っていました。
私の家には20巻までしかなく、残りの巻が見たくて見たくて堪りませんでした。
当時の価格で一冊390円ですが、今の5000円くらいに相当するのでしょうか。
テレビも写真も「モノクロ」が普通だった頃、子どもの絵本に「オールカラー」採用とは、
何という素晴らしい企画だったのでしょう。
浜田廣介や村岡花子、蕗谷虹児、高畠華宵、松本かつぢ等等・・・錚々たる顔ぶれが
生み出した、日本の児童文学の宝・・・と、私は勝手に信じています。
日本の子どもがフランスの少女、カロりーヌに出会えたのも、このシリーズのお陰でした。
新発田市の
蕗谷虹児記念館では、「うぐいすひめ」の原画にも会うことができました。