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王様の背中

今日のお話はこちら。
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             お伽噺「王様の背中」  内田百閒作/谷中安規・画
             原本:昭和9年 楽浪書院/複刻:1993年 ほるぷ出版

本日4月20日は内田百閒の忌日です。そこで私の「宝物本」のひとつをご紹介。

学生時代、大正~昭和初期の児童文学マニアでした。
その頃ほるぷから、「赤い鳥」の複刻書が出ました※
大学の図書館で見つけ、すぐに欲しくなり、書店に問い合わせると・・・
「セット売り、36万円です」
「バラ売りはいたしません」

学生のバイトの時給が500円かそこらの時代でした。
もちろんローンなんて、考えられません。
在学中は「禁帯出」の本を、ため息をつきながら眺めていました。

そして今日のこちらの複刻書。もちろんセット販売です。

実は先に好きだったのは、谷中安規の方でした。
幻想的な作品を得意としながらも、不遇のうちに戦後、餓死した画家です。
内田百閒に愛され、作品の挿絵を手掛けたりしていました。
そのひとつがこの本です。

当時はとっくに社会人、それに「赤い鳥」の1/3の値段でした。
それでも10万円を超える書籍ですよ。ちょっと勇気がいりました。
でも、「赤い鳥」のように、逃がしたくはありませんでした。
だからこれは、たとえ複刻であっても宝物。

さて、古今東西、色んなお伽噺や昔話がありますが、
実はこれがなかなかのクセモノで。
教訓やら、勧善懲悪やらと、純真なお子様に
思想教育を垂れようなんて魂胆が隠れていたりするもんです。
大人というもんは、なかなかコザカシイ生き物であります。

ところが、我儘育ちの百閒先生は、フツーの大人と違います。
このお伽噺には、な~んの教訓なんかも隠れていません。
良い子のみなさんも、安心して手に取ることができますよ。
この通り、百閒先生が「序」の中で保証ずみです。
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ではお伽噺の中から教訓を取り去るとどうなるか・・・?
それはそれは摩訶不思議、
のんびりと、かつシュールな百閒童話の出来上がり、なのです。
安規画伯の、昭和初期とは思えぬようなファンタスティックな版画つき。
当時のお子様は、一体どんな幸せな気持ちでこの本を手にしたことでしょう。
・・・もちろん、手に出来たお子様は、ほんの少数だったでしょうが。

この本には全部で9つのお話があります。
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表題作の「王様の背中」は、
背中が痒くて痒くて痒くてたまらなくなってしまった王様のお話。
魚を見れば、「もし魚の背中が痒くなったら、どうするのだらう」
と考え、背中だけでなく全身が痒くなってしまう王様。
鳥を見ても亀を見ても、みーんな背中が痒いように見えて
身体をもだえる王様・・・のお話。

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じゃ、百閒版「桃太郎」はどんなお話かって言うと。

主人公は、桃太郎の生まれた後の、桃を盗んで行った猪なのさ。
何しろお爺さんもお婆さんも、桃から生まれた桃太郎に夢中で、
桃太郎の入っていた桃のことなんて、それっきり忘れてしまったんですもんね。

じゃ、その桃はどうなったかって言うと・・・
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ま、色々あってね。
とにかくめでたし、めでたし。で終わるんですよ。

複刻ではありますが、このシリーズはもう、古本屋でしか手に入らないでしょう。
でも買った人たちは、きっと元々が私のようなマニア系。
滅多なことでは手放さないはずです。

私は今でも探しています。幸せの「赤い鳥」・・・

百閒は後日、小文の中に、次のように記しています。

・・・「王様の背中」は私の文章と谷中安規氏の版画との合作である。
初めは谷中氏に挿絵をかいて貰ふと云ふつもりであったのが、出来上がつて見ると、
谷中安規画集の趣きがある。・・・


百閒ファンのみならず、安規ファンにとっても咽から手が出るほどの一冊でしょう。
まして両者の大ファンである私には、ダイヤモンドより価値ある本です。

※「ほるぷ」の名著複刻シリーズでは、紙質から製本方法、文体まで、
全て原本の通りに複製するので、「復刻」の字ではなく「複刻」を用いました。
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by haruno-urarano | 2008-04-20 20:40 | おはなし