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焼かれた魚

今日の絵本はこちら。

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                文・小熊秀雄 / 絵・新田基子  1997年 創風社



さんまの美味しい季節になると
この重いものがたりを 思わずにいられない・・・

 ***** ***** *****

白い皿の上で 焼かれたさんまは
海を恋しがって泣いていた。
仲間たちと楽しく遊んだ水面を、
海底の海草の茂みに見つけた紅色の珊瑚を、
そして
両親と仲の良かった兄妹たちのことを思い出して・・・

もうすぐ夕食になれば食べられてしまうこの時、
海が恋しい。青い水が見たくてたまらない。

自分の一番美味しい頬肉を食べさせてやるという条件で、
さんまはこの家の飼い猫に 海まで連れて行ってもらう約束をした。

だが。
猫は途中で逃げた。
頬肉だけはしっかり食べて。

置き去りにされたさんまは たいへんに悲しんだ。

通りかかったどぶねずみに
自分の片側の身を食べさせると約束して
海へ運んでもらうことにした。

だが。
どぶねずみも さんまを捨てた。

次に出会った野良犬も
さんまのもう半分の身を食べたが
約束は守らなかった。

ああ
さんまにはもう
食べさせられる 肉がない。
置き去りにされた森の中で
ただ悲しむしかなかった。
夜中に降った雨は 身のない骨にしみた。

翌日 からすが通りかかった。
からすには・・・眼玉をあげた。
もう これしかないのだ さんまには。
たとえ海が 見られなくなったとしても・・・

だのに。
からすは空から さんまを落とした。

さんまの落ちたのはだが 海のすぐ上にある丘だった。
懐かしい波の音が聞こえる。
でも さんまには それが見えない。
さめざめと 泣いて 毎日を過ごす。

ある日 ありの行列が通りかかった。
あり達は何の報酬もなく さんまを丘の終わる崖まで運んだ。

さんまは崖から飛び落ちた。
懐かしい 海の中へ。
気が狂ったように泳ぎまわった。

数日後
さんまは岸に 打ち上げられた。
白い砂が 骨だけのさんまの上に 積み重なる。
だんだん だんだん 砂が重なって
やがて 懐かしい海の音も
さんまには 聞こえなくなった・・・

 ***** ***** *****

小熊秀雄(おくま ひでお)。プロレタリア詩人。
1901年、小樽市に生まれる。
1925年、『愛国婦人』に「焼かれた魚」発表。
1940年、肺結核に死す。39歳。

別に「パロル舎」より英文対訳付きの絵本あり。
→ 焼かれた魚―The Grilled Fish

秋の夜長。ため息を そっとつく。
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by haruno-urarano | 2007-09-12 21:59 | 日本の絵本 | Comments(4)
Commented by milouxxx at 2007-09-13 23:24
か、悲しすぎます、このお話。
絵本にもこんなに重く悲しい話があるなんて。。。
1925年て、大正14年。
作者は読み手に何を、どんな想いを訴えたかったのでしょうね。
Commented at 2007-09-14 20:51 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by haruno-urarano at 2007-09-16 08:27
milouxxxさん、いらっしゃいませ。
絵本にも童話にも、悲しい話や重い話は沢山ありますよね。子供って結構、暗い話も好きですよ。自分の中の色んな感情を育てていくんでしょうね。
1925年は治安維持法の出来た年ですね。抑圧された時代の作者の思いが、そのまま今の時代に伝わるかどうかは不明ですが、読み手は自分の感性で自由に受け取って良いのではないかと思います。
Commented by haruno-urarano at 2007-09-16 08:36
mayumiさん、おはようございます。
私もいつも、同じような事を考えます。それから、猫や犬たちは、最初から海まで行くつもりなんかなかったんじゃないかと。きっと自分たちの「生」で精一杯だろうと。骨だけになったけれど、懐かしい故郷で魂を終えることの出来たさんまは、食卓で無念のうちに食べられるよりはずっと幸福だったと信じます。