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「桃源郷ものがたり」
松居直 文 / 蔡皋 絵 2002年 福音館書店
ひとあし早く、春をお届け。
理想郷を意味する「桃源郷」という言葉。
最近はカタカナ言葉で表現されることが多いのか、
あまり耳にしなくなったような気がします。
「桃源郷」の言葉の元になったお話しは、
中国東晋時代の詩人、陶淵明が書いた「桃花源記」でした。
陶淵明が生きた時代(西暦365~427年)は、
戦乱の絶えない困窮した時代でした。
そんな時代の陶淵明が作りだした理想郷とは、
現代の人たちが求めるユートピアよりも、
もっと切実で、高尚な場所だったのではないかと思います。
陶淵明の描いた桃源郷の舞台は、中国内陸湖南省の武陵という地で、
つまりはだから、「武陵桃源」という四字熟語があるわけですね。
この「武陵桃源」、現在の福音館書店の相談役である松居直さんにとっては、
幼年期の思い出のひとつであり、「桃花源記」は心の古里でもあるそうです。
そのことは絵本のあとがき部分に語られていますが、
読んでいて、ため息を何度も何度もつきました。
ああ、やはり文化の香りに溢れる環境で育たれた方だ・・・
ああ、昔の教育水準は、何と教養の高かったことだろう・・・
ああ、さすがは福音館の松居さんだ・・・
(こちらの→
福音館書店のページでも少し紹介されています。)
そしてため息は、本のページをめくるたびにも出るのです。
この本の絵を描いた蔡皋(さいこう)さんは、
武陵桃源と同じ、湖南省の方なのです。
この淡い色彩は、きっと日本人の心をとりこにするでしょう。
特にこの桃色遣いには、もう、ため息以外の何を出せばよいでしょう。
きっと・・・原画はもっともっと、ずっとずっと美しいのだと思います。
この本を仕入れたのは昨年の今ごろでしたが、
去年出会った絵本の中で、一番のお気に入りの中の一冊となりました。
ここ ←をクリックしてみてください。中国語の「桃花源記」の朗読が始まります。
画面には、この絵本の絵が使われています。ちょっとボケていますが。
中国というと、白黒の水墨画か、赤いゴテゴテのイメージが強いですが、
実はこんな淡い色遣いの画家もいるのです。
でもやっぱり、朗読を聞いていると眠くなりますね。
最後にもうひとつ。
湖南省の常徳には、桃源郷のモデルを名乗る桃花源村という村があります。
こんな→
場所です。